顔の見える関係をライフスタイルに取り入れる。UPDATERでは、電気の生産者が選べる「みんな電力」をはじめ、人と人の繋がりを育むことで、社会のサステナビリティを叶えるサービスをお届けしています。
「みんな電力」による「アーティスト電力」は、再生可能エネルギーの電気を介して、アーティストとファンがつながることができる、唯一無二のサービス。アーティストの発電所で作られた電気をご自宅で使うだけでなく、表現活動自体を支え、限定イベントなどの特典を受けることができます。2021年4月の立ち上げから現在までに、いとうせいこうさん、シアターブルック佐藤タイジさん、ACIDMAN 大木伸夫さんと、アーティスト電力も第三弾まで開設できました。今後も新たにアーティストの参加が続く予定です。
今回は、ユニークな電力サービスの発案者であるいとうせいこうさんをお招きして、電気を選ぶことのメリットや、そもそも選ぶという自主的な消費行動の意味についてお聞きしました。社会や地球を良くする消費とは、どんなことを可能にするのでしょうか。お相手は、UPDATER代表取締役・大石英司です。
売るも買うも自分次第。 みんなに安心感が広がる場
このお店、以前ラジオで紹介させてもらったんですけど、すごく面白いんですよ。誰でも商いができる棚が100個くらいあって、自分の好きなものを売ることができるんです。アクセサリーとか手工芸、クッキーやお煎餅など食べ物を売る人もいるし、自分で書いた小説とか、デザインや動画作成なんかを売る人もいて、眺めているだけでも楽しいです。
大石
すごくいいね。よく「自分の価値が見つけられない」って言う人もいるけどさ、実はみんな案外こうやって、売り物になる何かを持っているものなんだよね。書いたものとか、ただ好きなものとか、別に売ったっていいんだもん。俺もこのかわいいキノコの置物、買おう。
せいこうさん
いろんな棚が個性的に並んでいて、小さな商店街みたいですよね。賃料は月3,300円だそうです。お小遣いでお店を出せるという人もいそうで、夢があると思いました。
大石
まさに商店街だね。お目当ての棚を見に来たら、他の棚だって覗くはずだし、棚を借りている人も他の棚の人から買うだろうしね。いつの間にか生産者と消費者の境界線が引かれちゃったけど、本来は常に入れ替わるものじゃん。実際の商店街って、お味噌屋さんはコロッケ屋さんに買いに行くし、コロッケ屋さんは魚屋さんで買う。そうやってみんなが繋がりあって継続してる場所だもんね。
せいこうさん
以前、ここは自転車置き場だったらしいんですよ。だからアクセスがいいし、1階フロアが広い。オーナーさんはクラウドファンディングでリノベーションをして、地域のいろんな人が関わっているそうです。「ひとつ屋根の下」っていう名前の通り、子どもも学生もお年寄りも来る。イベントとかワークショップとかも多くて、みんなで一緒に楽しむことを体現していますよね。
大石
ここに入った瞬間、みんな楽しそうだなぁと思った。きっと地域の人たちが安心して集える場なんだろうな。直接知り合いじゃなかったとしても、なんとなくどこの誰か想像できるような距離感の人たちが来ていて、棚で何を売っているのか見たりしているうちに、関係性も自然に深まるんだろうね。
せいこうさん
ランチもまた地域の農家さんとか自家製のものを使っていて、とってもおいしいんですよ。前にうちの社員たちと食べに来た時のおいしさが忘れられなくて、今日もランチプレートを用意してもらいました。
大石
お〜、とってもかわいい。しかもおいしいね!
せいこうさん
おいしいですよね!こういう食事はなかなか都心では食べられないので、うちの社員たちもオフィスのそばに支店を出してほしいって言ってました。僕も毎日このランチが食べれたらいいなぁって思います。
大石
ここの魅力はさ、棚を借りて何か売ってる人とか、この地域で子育てや商売してる人とか、いろんな人が参加することで成り立ってることかもね。この距離感だったらカスタマーハラスメントみたいなことは起きようがないだろうし、働く人にとっても安心できる。民間の力って感じがするなあ。
これがもし自治体主導でできた場だとこうはいかないんだよ。ルールがガチガチに決められちゃって、自由に変えたり選んだりできないからね。でもここはきっと、お客さんたちの声を聞いて、アイディアを取り入れながら、日々良くなろうと変化している感じがするよね。
せいこうさん
そうですね。半年前に来た時も賑わってましたけど、今はさらに活発な感じがします。変化を厭わず、お客さんの声を聞くことは、大きな違いを作るんでしょうね。
大石
以前、浅草の職人さんにも「いろいろ注文をつけた方がいい」って言われたことがあるんだ。お客さんが「ここはこうして欲しい」「こんな事は可能か」って好きに希望を言うからこそ、それに応える職人の腕が落ちずに済むんだって。そしたらお客さんもよそに行かずにまた来てくれるから、その街全体がお客さんを逃さずにいられたみたい。
工業製品みたいに同じ規格が増えると、職人の腕も、消費者の見る目も落ちちゃうんだけど、本当は僕らももっと、いろいろ要望を言いあう方がいいんだよね。俺もよくお店の人とかに「こうしたらいいんじゃない?」とか勝手にアドバイスするけどさ、耳を傾けてくれるお店はやっぱり居心地が良くて、また行きたくなるもん。ここはそういうお店だと思うな。
せいこうさん
大石さんとか「みんな電力」に対しても、そんな感じだよね。どこかのイベントとかで偶然大石さんに会うと、最近どんなことに取り組んでるのか聞いたりして、俺もまた、じゃあこんなこともできるんじゃない?なんてアイディアが浮かんだりする。大石さんは経営だけしている経営者じゃなくて、アイディア型の経営者だから、俺も話しやすいんだよね。それで盛り上がると、誰かの許可とか関係なく、お互いSNSに書いちゃったりして、結局、話が決まるのも早いからいいんだ。
せいこうさん
アーティスト電力の最初の構想の時もそうでしたね。せいこうさんが「電力パネルがたくさんあって、いろんな人がそれを小さく申し込めるのがいい」と言ってくれて。僕たちも、そうか!それはいいな!と100%共感でした。
大石
だってワクワクするよね。自分の電力パネルを持てたりさ、水力にしようかな、太陽光と少しずつ持とうかな、なんて選べたりしたら。このお店の棚を眺めてるのと同じで、どこで何を買おうかな?って考える楽しさがあるじゃん。
せいこうさん
ただの消費ではなく、
思いやりの含まれた
消費がしたい理由
服を買う時も、あれこれ選びながら、なんで俺はこのジーンズがいいんだっけ?って考えたりするでしょう。そうすると、そうか、あの時に褒めてもらったことが嬉しかったんだ、とか思い出したりして、自分のことを知るんだよね。電力を選ぶ時も、選びながら実は、自分を知ることができているんだと思うよ。それが今までは原発とか火力とか、みんな同じ選択肢しかなくて、誰も選べないようにされてきた。個性を消されちゃってたんだから、電力を選べるってすごく大事なことだよ。
せいこうさん
再エネの場合は、生産者さんたちもすごく素直に「うちの電気はこういう電気ですよ、買ってください」って言いやすいみたいです。
大石
変な儲けとかを乗せてるわけじゃないから、安心して言えるんだろうね。太陽はみんなに平等に照るわけだし。再エネの場合はユーザーも状況がわかりやすいから、もし自然災害があっても、早く電気をどうにかしろ、なんて気持ちには絶対ならないじゃん。むしろ、何か力になれることはないかと考えたりする。それが本来の消費のかたちだと思うよ。2022年にものすごく電力が高騰した時も、大石さんたちはどれだけ大変だろうか、と思っていたもの。
せいこうさん
そうですね。あの時は大きく赤字になりましたけど、お客さまにご理解いただいたおかげで、2024年度はやっと黒字になりました。ある程度数字が見えた時、皆さんにお返ししなきゃと思って、3月は値下げもできて良かったです。
大石
あの値下げはビックリした!すごい粋なことするなぁと思ったよ。本当にお客さんたちのことを考えてるんだと思ったし、だからこそ、お客さんとの関係が揺るがない会社なんだなって。大石さんにとってはさ、お腹が空いてる人にタコ焼きを焼いてあげたい気持ちと、再エネを使いたい人に電気を届けたい気持ちが同質なわけでしょう。
せいこうさん
前に聞いた話だけど、江戸時代はすごく火事が多かったじゃない?近くで火事が起きると、商人たちは急いで稲荷寿司とかを用意して、火事を出しちゃったところに届けてあげたんだって。そうすると、大変な時にまっ先に気にかけてくれたお店に感謝するわけ。「あんときゃ助けてくれてありがとうな」って。いつまでも義理堅く、「これからもあんたの店で買うよ」と思う。江戸ではそうやって、信頼を強めながら支えあっていたらしいんだよね。
見返りのためじゃなくて、いつか自分も困ることがあるかもしれないから、積極的にボランティアをして、みんなで支えあいを保っていた。大石さんがしてることも、江戸の商人たちと同じだよね。人間同士の思いやりの関係を作ってるんだもん。本来の消費はそうやって、コミュニティのイズムと関係しあうものだったんだと思うよ。
せいこうさん
消費には理由があったということですね。
大石
しかも江戸の商人たちは普段から、文化人と一緒に変わった柄の着物を作ったり、粋なサービスを考えたりしてたわけだよね。ある意味で、商売は常にお客さんから見られているものだと理解していて、だからこそもっと楽しんでもらえるように、もっと愛されるように、と努めていた。お客さんだって敏感に察知できるから粋に応えて、「それならひとつ買ってやろうじゃないか」と喜んで買う。
「みんな電力」のお客さんも同じ気持ちだと思うよ。どう考えたって大石さんたちも大変なはずだけど、でもなんか電力高騰を乗り越えているのを見て、自分もしっかり支える側でいいなきゃ!って気持ちにさせてくれるんだよ。
せいこうさん
確かにそうですね。あくまでお客さんたちの自発的な消費行動だけど、でもやっぱり支えてもらっていることを感じます。
大石
安いから買うとか、流行ってるから買うとか、そういうただの消費じゃないからね、「みんな電力」のユーザーたちは。人間関係とか思いやりとかが含まれた消費行動だもん。それもUPDATERが作ったかたちではなくて、ずっと昔からあった消費のかたちをまたUPDATERが始めてくれたんだよ。消費のかたちを取り戻す。つまり、自分たちの誇りも取り戻すことだと思うね。
せいこうさん
エネルギーを民のものへ。
「みんな電力」と一緒に
変えていきたいこと
「アーティスト電力」も、第三弾まで開設できました。興味をもってくれているアーティストも多いので、これから増えることが楽しみですね。
大石
増えてほしいね。最初のアイディアでは、まずアーティストが1千万円とかを負担してパネルを全部保有して......みたいな話だったけど、それはすぐにやめようってことになったよね。だって個別にパネルを買う人たちの気持ちが何よりも大事だから。買った人が、「俺はいとうせいこうの発電所にパネルを持ってるんだ。自分の意思で電気を賄ってるんだ」って実感できる自主性が大事であって、アーティストは発電所に名前を貸しているだけの方がいい。消費に自主性が乗っかった時のパワーこそ、とんでもなく大きいものだと思うよ。
せいこうさん
実際始めてみたらすぐ、「会社やお店の電気を全部せいこうさんの電気にしたい」っていう希望がたくさん来ましたね。クリーニング屋さんとか。
大石
そう、「薬樹ウィル」のクリーニング屋さんね!彼らはもともと、本社とか薬局で「みんな電力」のユーザーだったけど、いとうせいこう発電所ができたら、「クリーニングサービス店の電気をいとうせいこう発電所に変えたい」って言ってくれたんだよ。彼らのクリーニング屋さんは、障害をもった方々がていねいに働いているお店なんだよね。
こんな素晴らしい消費のかたちはさ、俺の方が誇りに思っちゃうことだよ。働いている人たちもすごいし、雇用する経営者もすごい。その人たちを支える電気は、俺のパネルが作った電気なのかと思ったら、俺がジーンとしちゃうもん。生産者や提供する側がジーンとくるって、本当に大事なことだよ。消費者の気持ちに、自分の気持ちを重ねられているってことだから。
そういう関係性があれば、何かあっても乗り越えようって思えるし、お互い励まし合う感覚が持てると思うんだ。ときどき「いとうせいこう発電所から買ってます」と言ってくださる方に会う時も、同じ気持ちになるよ。相手の方も別に、俺に対して偉そうな態度は一切取らないし、俺もまた、いいですね!僕の電気を買うあなたは素敵ですね!って素直に思う。なんかお互いに対して、誇らしい気持ちで接している感じがするんだ。
せいこうさん
同じ願いや思いを持っている、同志みたいな感覚があるんですかね。
大石
そうだね、同志。それで言うと最近わかったことがあってさ。日本は特に、電気は国家や大企業が管理するものっていう意識にされてきちゃったじゃない?でも俺はさ、大石さんと一緒に、電力も民間の、市民が持つものに変えたいわけ。つまりりこれはさ、ナショナルトラストなんだって気がついたんだよ!
せいこうさん
なるほど。自分たちの消費行動によって、守りたいものを買う。電気のトラスト行動か。
大石
そういうこと!「みんな電力」は、地域ではなくネットワークによって、電気のトラスト行動をやってるんですよ。だから誰ひとり偉そうにしていない。ただ、誇らしい。俺はあの森を守る1人なんだっていう誇りがあるんだよね。実際に顔を合わせる機会がなかったとしても、一緒に森を守っている信頼がある。だってお互い一緒にお金を払って、人にも環境にもやさしい発電所を増やしたいっていう気持ちを共有しあってるわけだから。
せいこうさん
いいですね。市民みんなで一緒に盛り上げていくようなことは、僕たちももっともっとがんばっていきたいことです。僕はやっぱり、自然にみんなが楽しいな、面白いな、と思えるものを作りたいんですよね。消費行動によって、みんなが元気を取り戻して、そして、面白くもある。そういうものを目指したいです。
大石
大事な視点だね。「アーティスト電力」なんて本当に面白いもん。どこに行っても「自分の発電所がある」って言うと、みんなすっごく驚くから毎回本当に言うのが楽しいよ。これはもう、UPDATERによるユーモア。芸事で言う外連味(けれんみ)でもあると思うね。
せいこうさん
「自分を誇れる消費」が 楽しくて、面白い
この頃よく思うんだけど、いろんな街に「非核平和都市宣言」の看板があったりするでしょう。けっこう小さな街に行っても、役場の前に立て看板があったりして。あれを見てると、かつては重要な政策に対して行政単位での宣言をしてアピールしてたってことを実感するんだよね。
いつの間にか、エネルギーとか核とか重要な政策は政府のものになっちゃったけど、少し前までは自分ごとにしている人がたくさんいたんだよ。みんなが「核はダメだよね」と、小さい単位でも宣言していた。だからさ、俺たちもまたすればいいんだよ、宣言。「うちの町内は再エネ宣言です」とか掲げるの。小さい単位で。それがあちこちで起きることが大事じゃないかな。
せいこうさん
面白い!家庭ごとに表札の横とかに貼ったりしてもいいかも。
大石
そういうの、楽しくていいよね。「みんな電力」がかわいいステッカーとか作ったらいいじゃん。楽しく意思表明する個人が増えたら、それを見てまた気づく人がもっと増えていくよ。別に誰も押しつけたりしないし、無理に大きな声を上げる必要もない。ただ、この誇らしい気持ちを聞いてくれって思ったら、誰でもいつでも、軽やかに宣言できる。そういう社会にしたいよね。
せいこうさん
電気以外でも同じことが言えそうですね。好きな地域の農家さんが作る茄子をこの先も食べたいとか、生産時にCO2ができるだけ出ないように作られたものとか、あとこのお店の棚を借りている人たちも、それぞれの思いを表している。買う側は、それぞれの活動が続くことを願いながら買うわけですもんね。僕らが誇りを取り戻せる消費って、実は、身の回りに無限にあると言えるかもしれません。
大石
そうだね。みんなに平等に開かれた消費の在り方は、本当はたくさんあるんだよね。大事なことは、小さな動きがたくさんあちこちで起こることだと思うな。それと同時に、買えば元気になる物がそれぞれに必要。消費は本来、そういう力があるものだし、なんかさ、命を削りながら必死に働いて働いて、やっと買わせていただく、みたいなのはやっぱり違うと思うんだよ。消費者の立場が下になるのは、変なことじゃん。消費者が声を出すからこそ、世の中が変わるんだもん。このお店みたいな場所がどんどんできるといいよね。
せいこうさん
取材・文:やなぎさわまどか(Two Doors)
フォトグラファー:井手康郎(GRACABI inc.)